「僕は又三郎。
よろしくね。
君はとってもかわいいね。」

又三郎はマリアに
握手を求めた。

「あら、ありがとう。」

マリアは応じた。

マリアはランタンを
灯した。

「わあ。」

又三郎が
感嘆の声をあげた。

納屋の中には
こまごまとしたものが
あふれていた。

棚の上には
オルゴール人形や、
陶器の置物、
小さな額に入った絵、
ガラス細工など
置ききれないほどに
あふれかえっていた。

マリアは持っていた
包みを開いた。

中には小さなドレスが
入っていた。
いくらマリアが
子供だといっても
マリアにも小さすぎる。

「これはこの子の服なの。」

マリアは部屋の奥にある
猫足椅子に置いてある、
少女人形を出してきた。

「わああ。」

又三郎はまた声を上げた。

マリアは人形に、
新しくもらってきたドレスを
あてがってみた。

「くつもあるのよ。」

小さな小さな、
革靴も出してきた。

これらは、とても
高価な代物であろう。

「かわいいね。
いいね。女の子って、
かわいい服が着れて。

僕なんか、真っ黒な
ローブだけさ。」

又三郎は、
人形のドレスのレースに
そっと触れながら言った。

「又三郎、
この真っ黒な
ローブこそ、
男を引き立てるんだぞ。」

俺はそう言って
自分のローブの
胸元を引っ張ってみせた。

「おまえはまだ
ローブに着られてるけどな。」

又三郎が口をとがらせる。
マリアがあどけなく笑った。

「触ってもいい?」

又三郎は棚の上の
品々を見ながら
マリアに言った。

「ええ。」

又三郎は
大天使ミカエルと
ミカエル山が模られた
温度計を手に取り、
指先でそっと
積もっている埃を
はらった。

「マリア、こんなにたくさんの
宝物、一体どうしたの?」

「全部、
お客様からいただいたの。」

「お客様?」

又三郎が不思議そうに
俺を見た。

俺は少し首を
かたむけてみせた。

「売春ってこと?」

又三郎がマリアに
言った。

「そうよ。」

又三郎は黙した。

「軽蔑したでしょ。」

マリアが顔をそむけて
又三郎に言った。
又三郎はちらと
俺の顔をうかがった。

「だって、君はまだ
子供じゃないか。」

「生き方を選べるものと
選べないものが
あるんだよ。」

又三郎は温度計を
手に持ったまま
静かに俺の言葉を
きいていた。