「で、あんたは?いつからここに?」

「学校卒業してすぐ。」

「まだ若そうだな。」

「二十歳だよ。俺、女にもてなすぎて、
いやになっちゃって、女のいないところに行きたくてここに来た。」

そんな理由で?
ここって、修道院だよな。信仰心からここへ来た奴はいないのか?

「それ、矛盾してないか?女のいないところへ来ちゃったら、
もてるもてないとかの問題じゃないだろう。」

「だってえ、俺がどんなに好きでも逃げられるんだ。
ひどいときなんかなんにもしてないのに避けられるんだ。
人間扱いしてくれないんだ。」

せむしは、せむしとあだ名されているほどには背は曲がっていない。
ただ背が低く太っていて猫背なので肩に肉がのっかっている形だ。

「娼館へ行けよ。」

「ええ。ああいうとこの女って。やだな。病気うつされるし。」

俺は苦笑してしまった。

「そりゃ、わがままだろ。」

すると奴のつぶらな瞳が急にきっときつくなった。

「あんたには俺の気持ちなんかわからんだろうよ。
そんな男前で、道化師で、たいそうもてただろうな。

おれみたいに女から理由もなくきらわれるつらさなんか
わかってたまるかよ。
そうさ、俺はブタさ。」

奴は自分の言葉に悦に入っているように、
見当はずれな方向に顔を向け遠い目をしてみせた。

「誰もそんなこと言ってないじゃないか」

せむしは何かひどく女性にコンプレックスを持っているらしい。
そしてどうやら自意識過剰のようだ。

「ごめんよ。何か気に障るようなこと言ったなら。
機嫌直して、これからよろしくたのむよ。」

俺は握手を求めた。
せむしの顔は徐々にまた柔和にもどった。

「わからないことがあったらなんでもきいてよな」

女のことに触れなければ、結構いい奴らしい。



「神経質男さーん。」

俺はせむしのベッドの上段に寝ている男に呼びかけた。
男はゆっくりと顔を起した。
髪は白髪まじりで、痩せていた。

「俺、ミゲーレです。よろしくお願いします。」

神経質男は俺を見るなり、ひどくおびえた。

「お前、とり憑かれてるぞ!」

「は?」

「見える、霊が見える。」

なんだ、ここにはまともな奴はいないのか。
変なのばかりじゃないか。

「お前の隣に、白い少年が立っているぞ」

「ああ、こいつですか?
気にしないでください。俺の弟です。」

俺は悪ノリしてみた。
ひょっとして、この男にはqが見えている?
まさか、そんなはずないだろうが。

俺が握手を求めて手を伸ばすと

「ひああ。近づくな」

神経質男はロザリオの十字架を俺に突きつけた。

(こいつとはコミュニケーション取れないな)