「…………リネットお姉様………もう……止めて下さい……お姉様………」
………はっきり言って、剣を持つのも辛い程、体力は残っていなかった。
刃を向けるだけでも苦しくて仕方無いのに。
リネットは相変わらず微笑んだまま、長い剣を両手で握った。
フラフラとした足取りで、また距離を縮めて来る。
「………お姉様………」
………もう嫌だ。耐えられない。
………私はどうすれば?
どうすれば良い?
(…………何も………出来やしない)
ローアンは動かなかった。
もう、逃げるのは嫌だった。………現実から目を背けるのは……もう、嫌だ。
……目の前にまで来たリネットは、剣を頭上に振り翳した。
彼女は笑っている。
人形の様に。
「…………お姉…様………!」
13歳の我が姉に向かって、震えた声で、ローアンは叫んだ。
………剣が、重力に従って……降りて来た。
振り下ろされた剣は、真直ぐローアンへ。
―――……ローアンは目を見開いた。
リネットの剣は、頭上スレスレの所でピタリと止まった。
………カタカタと震える銀の剣。
リネットの表情からは、笑みが消えていた。
ぼんやりと、首を傾げている。
ローアンは驚愕の表情を浮かべていた。
剣の動きが止まったことに、驚いている訳では無い。
ローアンが凝視する先に映るのは……………………リネットの剣を後ろから掴んでいる、別の真っ黒な影。

