亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


「…………リネットお姉様………もう……止めて下さい……お姉様………」


………はっきり言って、剣を持つのも辛い程、体力は残っていなかった。


刃を向けるだけでも苦しくて仕方無いのに。



リネットは相変わらず微笑んだまま、長い剣を両手で握った。

フラフラとした足取りで、また距離を縮めて来る。

「………お姉様………」

………もう嫌だ。耐えられない。


………私はどうすれば?


どうすれば良い?










(…………何も………出来やしない)










ローアンは動かなかった。

もう、逃げるのは嫌だった。………現実から目を背けるのは……もう、嫌だ。

……目の前にまで来たリネットは、剣を頭上に振り翳した。







彼女は笑っている。





人形の様に。
















「…………お姉…様………!」


13歳の我が姉に向かって、震えた声で、ローアンは叫んだ。


………剣が、重力に従って……降りて来た。

振り下ろされた剣は、真直ぐローアンへ。













―――……ローアンは目を見開いた。




























リネットの剣は、頭上スレスレの所でピタリと止まった。


………カタカタと震える銀の剣。




リネットの表情からは、笑みが消えていた。

ぼんやりと、首を傾げている。









ローアンは驚愕の表情を浮かべていた。

剣の動きが止まったことに、驚いている訳では無い。






ローアンが凝視する先に映るのは……………………リネットの剣を後ろから掴んでいる、別の真っ黒な影。