亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~



………予想以上に速く、鋭い突き。


首筋を掠めて横切っていく剣を、ローアンは目で追った。


まだ刺す様な痛みが走る今の身体では、全ての攻撃を避け、受け止め続けるのには限界がある。





………反撃など出来ない。

出来る訳が無い。







『―――…アハハハハハハ!ハハハハハハ……!』


実に楽しそうに、軽やかに、リネットは剣を振り回す。
剣術などしたことが無い筈だが、今の彼女は熟練した兵士の動きとさして変わらない。

緑のドレスが風に揺れる花びらの如く、フワリフワリと舞う。

彼女が踵を返したり、クルリと回る際、嫌でも目につく………痛々しい背中の傷。


剣による切り傷だが。…………あれは、六年前のあの日………自分を庇って斬られた時のものだ。



死んだ時の姿。




あの日の姿で………彼女は剣を手に…笑っている。



「………リネット…お姉様……!!」


いくら叫んだところで、状況は何も変わらない。

死んでしまい、影となった彼女の耳には、どんな言葉も届かないのか。





ローアンは後退しようとした途端………背中が壁に当たった。

………しまった…!


いつの間にか壁際まで追い詰められていた。

中庭の角にあたる場所。
蔦が這う真っ白な壁を背に、ローアンは顔を上げると、長い剣が頭上に落ちてきたのが見えた。

「―――っ…!?」


咄嗟に短剣で受け止めた。

小さな火花が舞い、刃こぼれした欠片が足元に落ちる。




リネットは笑いながら、片手で振り下ろした剣に、もう片方の手を添えて両手でグッと押してきた。




………華奢な少女とは思えない様な、物凄い力だ。