亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~



胴体を半分以上斧で斬ったところで、イヨルゴスは斧を手放し、太い幹に両手を添えて………………自力で、上半身と下半身を離した。


ブチブチ…と皮膚や血管が千切れる。


幹にめり込んだ、痙攣する下半身。

腰から上だけになったイヨルゴスは、そのまま地面に俯せに倒れた。



「…………自力で……パラサイトから抜けた……」

身体を引き離し、逃れた怪物。………どれ程の痛みが伴うのか。想像も出来ない。

………いや、既に痛覚など無いのかもしれない。


「………狂ってる…」

残された下半身の惨たらしい断面からは、反り立った黒い背骨が見え、不気味な青黒い血液が噴水の様に吹き出している。


……上半身だけの怪物は、その巨大な両手を動かし、ゆっくりと地を這う。


………ビクビクと痙攣する身体や、後を引く血液と肉片の塊など、気にも止めずに。


………血走った青い瞳が、兜の下でギョロギョロと忙しなく動き回り……………豆粒程に小さいキーツの姿を捉えた。


縫われている避けた口が、震える。皮が剥れた唇が隙間を作り…………血を吐いた。







イヨルゴスは両手を動かした。

爪を大地に食い込ませ、重い身体を引き摺って………前へ。前へ。


狂気染みた鋭い視線をヒシヒシと感じながら、キーツは剣を構えた。


「………キーツ様………お逃げ下さい。……………あれはもう………生き物の目ではありません……」

「………幽霊と戦っているのか?……………………いや…………………もっとややこしくて………怖いものだな…………」