「………避けるしかないのか?……………………斬ったら妙な樹液が出て来るしな……」
「植物にはやはり火が効果覿面だとは思うのですが………恨まれそうで怖いですな…」
集中攻撃されるだろう。絶対に。
捕らえようと地中から現れた太い根をキーツは避けた。
………舞い散る黒い花弁が視界を邪魔して…よく見えない。
花吹雪は案外邪魔だ。
「………!……何だ………?」
バキバキバキ…という軋む音が頭上から聞こえ、細かい木片が降って来た。
キーツは見上げた。
………そこには、下半身を取り込まれてしまったイヨルゴス。
幹から身動き出来ずにいる怪物は、キーツを見つけると更に暴れた。
巨大な樹木が、ユラユラと小さく揺れる。
唯一自由な上半身で、勢いをつけて離れようとしているが、皮膚や神経が完全に同化しているのか、動けずにいた。
荒々しい呼吸を繰り返し、足元に転がる巨大な斧に手を伸ばした。
刃先に絡み付いた枝を固い爪で引っ掻き、溢れる濃い酸性の樹液を腕に浴びながらも、何とか斧から枝を外した。
鈍い光沢を放つ斧の柄を握り、息を吐いて構える。
………パラサイトの幹や枝を斬るのかと思われた斧の刃先は、空を斬り………。
……………イヨルゴス自身の腹部に食い込んだ。
「―――!?」
キーツは驚愕の表情を浮かべて、その光景を見詰めていた。
「………痛ぁ―い………」
連続して自らの腹に刃を入れる怪物。その様子をイブはしかめっ面でガン見する。
………徐々に深く、抉れていく腹からは、生々しい身体の、歪な断面が露わになっていく。
ドボドボと漏れ出る青黒い血液。
傷口からは背骨の様な骨と太い血管が見えた。

