『―――旦那様が亡くなられた今、貴方は血を継ぐ唯一の御子…!死んではなりません!貴方だけでも逃げるのです!』
住み慣れた屋敷が、真っ赤な灯の塊と化していく。
毎朝見掛けるメイドも、世話焼きの教育係も、悪臭を発するただの人形になってしまった。
空から、朱色の雨が舞い降りて来る。
喉が痛い。
胸が苦しい。
痛い。
痛い。
痛いよ………。
助けを呼んでも、帰ってくるのは耳をつんざく悲鳴ばかり。
―――彼女は……あの子は無事だろうか。
―――城の廊下は屍でいっぱいだった。
避け様にも避けられない。
ベッドの上を歩いている様な柔らかい感触が靴底から伝わってくる。
玉座がある謁見の間の大きな扉が、完全に開いていた。
そこで………白い悪魔を見た。

