亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

「では僕も……失礼します」

「ああ。後から呼びに寄越す」

リストは敬礼をし、すぐに部屋から出て行った。



……広い部屋に独り。キーツは相変わらず地図を見下ろしながら、ゆっくりと地図の端に沿って歩いた。

握り締めた白黒の駒を、カチカチと手の内で鳴らす。




(…………荒野は、また……)


開いた手の平から、バラバラと駒が流れ落ちた。
荒野を描いた地図の上に、白と黒の駒が散らばる。
入り乱れたモノクロームは、戦場の二つの勢力をそのまま表していた。

決して相容れない、正反対の力。昼と夜。



(………また……こうなるのか………)









広げた地図と散乱した駒はそのままに、キーツは出入り口の扉に向かった。

外に控えていた兵士には、部屋はそのままに、と言って退室した。

螺旋階段をゆっくりと降りて行くと、階下の廊下をアレクセイが通り過ぎて行くのが見えた。
………なんだ………取り敢えず倒れてはいなかったか。………今まで何処にいたんだ?

呼び止めようとしたが、その背中はあっという間に小さくなり、視界から消え失せた。

………何をあんなに急いでいるのだろう。




不思議に思ったが特に気に止めないことにし、一階まで降りた。

そのまま自室へ向かおうと歩を進める。


………が、ふと、扉の隙間から明かりの漏れた部屋が目に入った。


………中から何やら声が聞こえる。




………独り言?