亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

とにかく鏡の前に座らされ、ハイテンションのアレクセイにされるがままに顔をいじくられていくローアン。

アレクセイ、お前何でも出来るな。万能だな。何処でもやっていけるよ。

化粧など今まで縁の無かったローアン。
何をどうするのか皆目見当も付かない。
アレクセイが取り出す道具にいちいち目が行く。


(…………あの白い粉は何だ……………唇は最初から赤いのに、何故更に赤くするんだ……………訳が分からん…!)

「ローアン様!!キョロキョロしないで下さいませ!!」

「だって!!………だって気になるから!!」



化粧をするのにどうして喚き合うのか。

その様子を後ろから見守るルアは、静かに欠伸をした。




























暗い塔の一室。

ひび割れた、埃塗れの大きな窓から見える光景は、淡く光る純白の城の姿が、その殆どを占めていた。


神々しい城を静かに眺めるのは、白い法衣を纏った三つの人影。周りを蛍火が飛び交い、宙で揺らめく神秘的な姿。

長い時間守り続けていた沈黙が、守人の一人の呟きによって破られた。





『―――………不穏じゃ』



『―――……城の事、か……』

『―――……黒々しい悪意が立ち込めておる………』

長い長い年月をこの城と共に生き、浅はかな人間の欲望や憎悪に塗れた数々の戦を見てきた守人。

そんな彼らの、古代から受け継がれてきた占いごとに、来たるべき『時』の日は………。






『……………恐ろしや………悪魔が覗いておる…』