亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

一歩進む度に、小さな衣擦れの音が鳴る。

高いヒールの踵が、柔らかな絨毯に深く沈んだ。


………ヒールは今後一切…履くのは止めておこう。……歩き辛い。

足場の悪い凸凹道でもないのに、バランスを取るのに必死だった。
フラフラと、しかし確実に一歩ずつ踏み込みながら、壁に手を掛けて進んだ。


足元では何故かおおはしゃぎのルアが、千切れんばかりに尾を振り、吠えながらクルクルと回っている。

………ドレスに身を包んだ昔の主人の姿。懐かしいのだろうか。

しかしルア。

はっきり言って邪魔だ。踏みそうだ。


ガクン、と身体が前のめりに倒れそうになったが、なんとか体勢を整えた。


どうしてこう……女の着るものは動き辛いんだ…!

内心で悪態を吐くローアン。

壁から手を離し、なんとかして真直ぐ立った。



……ふと顔を上げると、すぐ目の前に大きな古い鏡が立て掛けてあった。






…………青いドレスを着た、見慣れない自分がいる。


………こっちを見ている。

鏡に映った等身大の自分は、しばらくこちらを睨んだ後、微笑を浮かべ、小さな溜め息を漏らした。









(……………私も………一応…女、か…)


改めて気付いたというか、少し忘れていたというか。




ローアンは無言で鏡を見詰めたまま、後ろで団子状に結い上げていた髪を………スルリと、解いた。







軽くウェーブの掛かった、絹の如き滑らかな金髪。

腰にまで届きそうな髪は、絡むことなく重力に従ってフワリと肩と背中に垂れた。