亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

フワリフワリと舞い散る細かな埃。
本のちょっと息を吸うだけで、それらは「今だ!」と勢いよく鼻孔や口に侵入してくる。

………クシュン!



ルアは小さなくしゃみを繰り返した。

足元や尻の下には、ルアにとってはただの敷き物か障害物にしかならない、散乱する書物の山。

……背後に積み上げられていた山の一つが、何の前兆も無く急に崩壊した。
尻尾を挟まれそうになり飛び退くルア。

「ルア、注意しなされ。聖獣が本の下敷きになって圧死など、笑い話にしかなりませんよ」

その側の椅子に腰掛け、黙々と書物を読みあさるアレクセイ。

薄暗い書物庫でランプの明かりを頼りに、黄ばんで薄汚れた文面に目を凝らす。


「……ルア、何時だと思っているのですか……もう遅いのですから、そろそろ寝なさい」

静かな夜更け。
注意するアレクセイにルアは首を傾げ、後ろ足で首を掻き始めた。
………やはりローアンとキーツの言う事しか聞かない様だ。
アレクセイは苦笑しながら溜め息を吐いた。

「…好きにしなさい。邪魔さえしなければ結構ですよ」


ルアはアレクセイの足元をウロウロと歩き回り、部屋中にある本棚を見回した。


その中で一際古い、年期の入った棚が最奥に一つ、ポツンと孤立していた。