亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

視界の隅に、煌めく光りの筋が見えた瞬間、キーツは反射的に後退した。

――途端、空気を真横に断つ鋭利な剣先が目と鼻の先を過ぎり、キーツのなびく髪を数本散らした。

…………修羅の目と化したスカイブルーの瞳が、目の前でキーツを睨んだ。


「………本気を出せ…」




……再び横に振られた剣を、瞬時に受け止める。
擦れあい、赤い火花が散った。


スッと、ローアンがいち早く剣を引っ込めた。
次の瞬間、次の攻撃を受け止めようと身構えていたキーツの腹部に、強烈な蹴りが入った。

「…………っ…!?」

ズザザザ……と反動でキーツの身体はのけ反り、地面を削った。

「………蹴った…………女が………蹴った………」

信じられない、と目を丸くするリスト。
こんな乱暴な女人は生まれて初めて見た。

「………蹴り位当たり前だ。……生死がかかっている戦場では、形ばかりの剣術など役に立たない。………勝つためならば、不意打ち、目潰し、脛蹴り…………人間何でもやるだろう?」

「………そりゃそうだけど………」


型にはまらない戦術。ピッタリとはまっていては、攻撃パターンも弱点も定まってしまう。
敵にそこを突かれるのは痛い。



腹部を押さえながらキーツは身体を起こし、剣を構えた。


…………あれはやる気の目だ。


「………怪我をしても……知らないぞ……」

「……承知の上だ」