亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

振り返ったアレクセイの笑顔が、そのまま硬直した。


ローアンは窓を全開し、縁に足を掛けていた。

「………三階だったなここは。………まあ、大丈夫だろう」

「大丈夫ではありません!?」

アレクセイの悲鳴に近い叫び声を後ろに、ローアンは窓から飛び降りた。



落下しながら、側面の壁を思い切り蹴った。
華奢な身体は弾かれた様に壁から離れ、クルクルと回転し………傍観していたオーウェンのすぐ隣りに、トン、と軽やかに着地した。


…………あまりにも突然の事に、オーウェンは惚けた顔で、ゆっくりと立ち上がるローアンを横目で凝視していた。

キーツとリストも、急な来訪者に思わず固まった。


「…………お前……生身だよな?……“闇溶け”とかしてないよな?」

「……出来る訳が無いだろう。生身に決まっている」

「…………あ、そう…」

オーウェンは無言で何度も頷いた。

三階のカーテンが揺らめく窓から、真っ青なアレクセイが顔を出して「ローアン様――!?」と叫んでいる。


「………身体が鈍っている。……私も入れてくれないか?」

ローアンは腕を組み、立ちすくむ三人を見回した。
……リストは顔をしかめている。キーツは………汗かいてる。


「………良いんじゃないですか―?面白そうだしよ。なぁ?」

「いや………なぁって言われても……」

どう対応すべきか迷っているキーツに、ローアンが目を光らせた。

「………指名させて頂こうか。………総団長殿、お手合わせ願いたい」

ビシッと指差すと、キーツはあからさまにうろたえた。