亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

手元から弾かれた槍をぼんやりと見やり、オーウェンは参った、と両手を挙げた。

「………容赦無いね―総団長……息抜き位手を抜いてくれよ」

「…その甘さがいけないんだ。戦場では命取りになるぞ」

キーツは苦笑しながら長い剣をクルクルと華麗に回し、カチン、と鞘におさめた。

「へいへーい…有り難い御教授でした。………次はリストやるか?」



塔の反対側にある貴族の城。

元は緑溢れ、色とりどりの花が咲き乱れていた庭園が広がっていた場所。

今やそこは、何も無いただの荒地だった。
誰も寄付かないこの場所で、兵士達に隠れて幹部だけで、こうやって手合わせしたりする。

上に立つ者は、あまり戦場以外で剣術を部下に見られてはいけない、とかいう妙な心得があるため、ろくに練習出来ないのだ。

大将とは動かないもの。そんな概念があるが故のものだろう。



…高低様々な鈍い金属音が鳴り響く荒地を、ローアンは貴族の城の階上の窓から、頬杖を突いて見下ろしていた。



「………なるほど……!……ようやく疑問が解消されましたぞ!ローアン様がお食事を全くされないのは、嫌いだからとか拒絶反応が出るからとか極度に厳選されたベジタリアンだからとかではなく……必要が無かったからであったのですね…!」

ずっとずっと、ずーっとアレクセイの頭にあった悩みの種が、この瞬間パッと消えた。感動しているのか、ハンカチで目元を押さえている。

それを傍目に、ローアンは実に久方振りの食事をしていた。

………木の実を囓っているだけだが。