亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

「………見て分かるぜ。あんたは……兵士には向いていない。…………罪悪感は無いのか?……そんなに……俺らが、憎いか?」





………アレスの使者に属する者達のほとんどが、貧困階級にあたる民だ。

そして、戦争が生んだもの。
………孤児、売買された者、迫害された者……。

たいていの人間が、貴族を憎んでいる。

どうしてこんな目にあわなければならないのだ、と……恨んでいる。




マリアの微笑が、薄らいだ。

小さく首を傾げて、目を細める。

「………貴族は……嫌いじゃないわ…………でも……」

……マリアの瞳は、真直ぐオーウェンを映した。








「………………………………好きでもないわ」

……オーウェンは溜め息混じりにガシガシと頭を掻いた。

「………嫌われたもんだな……。………しかし奇遇だな。…………………俺も………貴族は、大っ嫌いだ……!」

言い終える瞬間、オーウェンは目にも止まらぬ速さで、手中に隠していた小さなナイフを投げた。

切っ先は空を切り、佇むマリア目掛けて飛んだ。


その動きに敏感に反応したダリルはナイフを弾き返し、優れた動態視力でナイフを捉えたイブは刃の部分だけを砕こうと爪を伸ばしたが…………二人とも寸前で思い止どまった。


………その必要が、無かったからである。

















ナイフはマリアの皮膚に刺さること無く、何処からともなく現れた、枝分かれした太く赤い枝に突き刺さった。