亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


化け物は叫び声一つあげることも無ければ、身じろきもしなかった。

深い傷口からは真っ黒な液が、噴水の様に溢れ出ているというのに……何の反応も無く、前へ前へ進もうとする。

「………このっ………!」

行かせるか……!



黒い巨体の背に近寄り、再度深く二本の短剣を食い込ませた。


ブシュッ…と生暖かい液体が顔にかかった。


「―――リスト様!」

法螺貝の音で駆け付けた兵士達が、グルリと化け物を囲んだ。

…前を塞がれたせいだろうか。そこでようやく、巨体は動きを止めた。
背中に飛び乗っているリストを振り払おうと、左右に激しく身体を揺らし始める。

巨体がグラリと傾く度に、そこら中に薄汚い液が飛び散った。


「槍兵は横から突け!動きは鈍い……丘を登らせるな!…………っ!?」


突然、足下の巨体の背中がその形状を変え出した。

ベコッと深く凹んだかと思うと、黒い触手の様なものが何本も周りに現れた。中心にいるリストを覆いつくそうとする気なのか、触手は足下から絡み付いてきた。


「―――…邪……魔だあああぁ!!」


瞬時に鋭い爪で細い触手を切り裂き、飛び退く直前、目にも止まらぬ速さでその背中に短剣を振り下ろした。


……数秒の間をおいて、巨体の身体全体に幾重もの深く長い傷が刻まれた。