あと一枚……と呟くキーツを放置し、オーウェンは早足で歩いて来たアレクセイに…………足を引っ掛けた。


グラリと前に大きく傾むく細い老人の身体が、瞬時に跳躍した。

クルリと宙で一回転した後、アレクセイは軽業師の如く部屋の隅に着地した。

さすがアレクセイ。老いても腐ってもアレクセイだ。

「……………何ですかなオーウェン様?」

笑顔を向けられたが、心なしかこめかみの辺りに青筋が立っている気がする。


「………少しは落ち着けよ。どうしたんだ?今朝から………いや………ここ最近おかしいぜお前……。…………あ、これおかわり」

オーウェンは空になったカップを乱暴に投げてよこした。

カーブを描き、回転するカップをアレクセイは溜め息混じりにキャッチした。


「………畏まりました。………………ああぁ……」

なんか嘆いている。

こんなアレクセイ、そうそう見れるもんじゃない。
昔、幼かったキーツがプチ反抗期に入ってトイレから出て来なかった時、今と同じように慌てふためいていた気がする。


「………重大な事かもしれないだろ?………抱え込まずに話してくれ」

リストも怪訝な表情を浮かべて言った。

アレクセイは困った様に首を傾げる。