昼になっても、深い霧は晴れなかった。
足元はまるで雲の上。冷たい空気がゆっくりと流れていく。
………広い、真っ白な川に見え隠れする、真っ黒な物体。
それは吐き気がする様な異臭を放ち、表面は気泡が浮かんでいる。
………辺り一面、ドロドロの不気味な粘着物で塗れていた。
崩れた家屋の屋根、柱、薙ぎ倒された木々に、それらはベッタリと張り付いている。
……………ほんの数日前まで………ここは村があったのだが。
刀身に付着した不気味な液体を拭い、異臭に蒸せながら辺りを見渡した。
「―――総団長」
霧の奥から、部下の一人が走って来た。キーツは振り替える。
「……負傷者はゼロ。幸い、退治した影以外他にいない様です」
「………この村の生存者は?」
「………ゼロです。血痕があるだけで遺体は愚か。………家畜さえ消えています……」
「………そうか……ご苦労。………ここから撤退する。皆に伝えろ」
「はっ」
部下は元来た道を再び走り去って行った。
………静かになった瓦礫の山。キーツはグルリと辺りを伺う。
……首都からの帰りだった。
帰路にあるこの村に差し掛かった時……影が襲って来たのだった。

