亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

見張りの交替の時間だった。

松明の火を消し、兵士達は城門前から中に入った。

ガラガラガラ……と太い鎖が壁伝いに内に回り、重々しい巨大な門が開く。



「………仮眠をとりたいぜ。こう眠いと……訓練もまともに出来ない………………あ?」

「どうした?」


一人の兵士が欠伸をしながら首を回していたが、その動きが突然ピタリと静止した。



「…………丘の下の方が…なんかおかしいぞ……………?」

「丘の?……………………どうおかしいって……」

急斜面の丘の上から二人は遥か下方を見下ろした。




………兵士が一人、走ってくる。




交替の時間なのだから、戻って来るのは別段不思議では無いのだが。


しかし……。





「…………なんで…あんな必死で走っているんだ……?」

「………今にも死にそうな形相してるな………」




何故か死に物狂いで走って来る兵士。
腰にさした武器は、刀身の無い、鞘だけ。


兵士よ。剣はどうした。剣は。


「………他の奴はどうしたんだ?丘の下の警備はもっと人数がいた筈………」


まだ薄暗い中で、兵士は息を切らして走って来る。





そのすぐ後ろに………人影がぼんやりと霞んで見えた。