亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


少年の背後で佇む小さな影は、か細い声で少年に答える。

「………その様な事をおっしゃっては……お父上ではありませんか………」

「………ああ。父上は父上さ。………それよりも…いつからお前は俺に口出し出来る程偉くなったんだ?………そう怯えるなよ?……お前を殴るのは案外疲れるんだ。……ま、どうせお前らには治癒術があるから…加減など考えなくていいか」

「……………」

黒いフードを被った少女は震えながら俯いた。



「…それはそうと…………お隣りの緑の国が近々騒がしくなると…父上に伝えておけ」

「………騒がしく?」

「…偉大なる父上も兄上も……気付いておられないのは残念且つ馬鹿らしいことだな。…………風がおかしいのさ。真っ直ぐな風が………近頃は震えている。…何かの前触れだろう」

「……風でお分かりになられたのですか?………先日あちらに密偵を放たれたのは……そういう理由からだったのですか……」


少女は、睨む様な鋭い目付きで太陽を見つめている少年をじっと凝視した。

自分とは全く違う赤褐色の肌。赤い髪。キラリと光る片耳のピアス。

………10歳とは思えない程、少年は大人びた空気を纏っていた。

「……魔の者よ…覚えておけ」」