少年の背後で佇む小さな影は、か細い声で少年に答える。
「………その様な事をおっしゃっては……お父上ではありませんか………」
「………ああ。父上は父上さ。………それよりも…いつからお前は俺に口出し出来る程偉くなったんだ?………そう怯えるなよ?……お前を殴るのは案外疲れるんだ。……ま、どうせお前らには治癒術があるから…加減など考えなくていいか」
「……………」
黒いフードを被った少女は震えながら俯いた。
「…それはそうと…………お隣りの緑の国が近々騒がしくなると…父上に伝えておけ」
「………騒がしく?」
「…偉大なる父上も兄上も……気付いておられないのは残念且つ馬鹿らしいことだな。…………風がおかしいのさ。真っ直ぐな風が………近頃は震えている。…何かの前触れだろう」
「……風でお分かりになられたのですか?………先日あちらに密偵を放たれたのは……そういう理由からだったのですか……」
少女は、睨む様な鋭い目付きで太陽を見つめている少年をじっと凝視した。
自分とは全く違う赤褐色の肌。赤い髪。キラリと光る片耳のピアス。
………10歳とは思えない程、少年は大人びた空気を纏っていた。
「……魔の者よ…覚えておけ」」

