亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~




「―――っ………おい!イブ!!」

自分よりも遥かに小さく華奢な後ろ姿は、到底追いつけない速さで、暗い廊下の窓から外へ走り去って行った。


ただ見送る事しか出来ないでいたジスカの前には、取り乱す事無く平然と歩いて行くダリルの姿が。


ジスカはダリルに追いつき、正面に回った。

光りも無く、焦点の定まっていない半開きの目がジスカを見上げる。

…………少年は実に不愉快そうな、怪訝な表情を浮かべていた。


「…………何?」

「………………トウェインの脱走の事………誤解するなよ…………………あいつは…」

「どいて…」

ジスカを押しやり、ダリルは再度歩き始めた。

「……………分かってくれ………!………………あいつは……こうするしかないって…」

ダリルはふと足を止め、ジスカを一瞥した。
………被った帽子から覗く妙に鋭い眼光は、13歳とは思えない。


「…………あんたこそ、どんな目で僕らを見てるのさ…………誤解だって?」

ダリルは鼻で笑い、やれやれと溜め息を吐いた。



「…………隊長が裏切った。………そんな事で僕もイブも腹を立てている訳じゃない。…………………あんたには分からないよ。…………第4部隊の内情がね」