亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

足下に白い靄がまとわりつく。
それは春風の様に暖かくて、優しい。






歌が聞こえる。

何処か懐かしい、オルゴールに似たか細い歌声。


真っ白な世界。


ふと前を見ると、いつもの様に、赤いドレスのあの少女が立っていた。


可愛らしい小さな白い花を両手で握り、歌を口ずさんでいた。











………少女は、ローアンは、トウェインに向かって静かに微笑みかけた。



―――この花を知っていらっしゃるかしら?

そう言って、白い花をトウェインに見せた。
絹の様なきめ細かい花弁。



―――……ローアン…私はお前など…。


―――知らない。



……そう言う前に、ローアンは急に踵を返して小走りで駆けて行った。


小さな背中は靄の中に消えて行く。




―――こっちよ。






…呼ばれているのか。


半ば無意識で、トウェインはローアンの元へ向かった。






―――ほら見て。綺麗な花畑でしょう?




ローアンの正面には、一面真っ白な花畑が広がっていた。


風など無いのに、純白の群れは左右にフラフラと揺れる。



―――素敵でしょう。ここは……いろんな思い出が詰まっている場所なの。