「―――遅ぉ―い!!」
楽しげなイブの雄叫びと共に、また一人、哀れな兵士が地面にスライディングしていった。
もくもくと砂埃が舞う中を、小さなシルエットが風の様に過ぎ去って行く。
………これって鬼ごっこじゃなかったっけ?
いつの間にやら逆に追われている気がする。
“闇溶け”で後ろに回ったつもりが、後ろに回られ、蹴られたり、噛み付かれたりした。
走り回っていたイブは突然立ち止まり、兵士達の前に姿を現した。
兵士達は息を切らしながら、一斉に身構える。
「………なーんか足りないなぁ?………緊張感って言うの?………………………いや……………危機感かな?」
にんまりと笑みを浮かべ、コキコキと首を回した。
「……うん。もっと楽しくしようか?…………そうだね………追われながら追うってのはどうかな―?」
そう言ってイブは、すっと息を深く吸い込んだ。
「―――『αταραχοζ・ αλυσνζα』(静かな・鎖)」
低い、小さな調べを、イブは囁いた。
フッと……イブの伸ばした手の平に赤い光りが宿った。

