亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


「いい?まず僕が教えるのは、僕ら全員が出来て当たり前の“闇溶け”のちょっとした応用、“闇入り”ね。これは守りとは逆の攻め技。………そこ、首傾げない」

ダリルがフッと腕を振った。



途端、睨まれていた兵士の額に横一文字の切り傷が走った。


「………!?」

兵士は流れる血を見て仰天した。周りの兵士も何が起こったのか分からず、驚きを隠せずにいた。

刃物なんて持っていなかった。ただ手を振っただけだ。
………この少年は一体何を?


「……今のは“闇入り”のもう一個ランクが上の技。……ほら、いつまで驚いてんの?時間との勝負なんだよ。…こんなガキに命令されて癪に障るとは思うけどね、こんな大人にいちいち教えないといけない僕の身にもなって欲しいね。あ?ムカツク?ムカついてきた?勝手にやってろ。さっさと整列して!馬鹿だな、もっと広がれ!間隔知らないの?縦横揃えて!のろいな!もっと素早く!最後尾のそこの奴!息が荒い!!死にたいのかアホ!!!」





…………最初憤慨していた兵士達の拳は、徐々に恐怖ゆえに震えてきた。


姿勢がダメ。真直ぐ立て。息するな。馬鹿みたいな顔するな。一回死んでこい。


…………気の弱い者はガタブルだった。