亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


細いマリアの首筋に、熱い吐息がかかった。
………ぞくりと身体が震えた。


「―――離して……下さい…………離して………!」

マリアは空いている両手で彼の身体を押した。
しかし、押し返せる程マリアの力は強くない。
ベルトークの腕の中で小さく抗うことしか出来ない。



ベルトークは、急にマリアを解放した。

が、それも束の間だった。
その一瞬で、マリアは背後の絨毯の山に押し倒された。



冷たい絨毯は固かった。

押さえ付けられた両手首が痛い。

止めて、と言おうと顔を向けた途端、マリアの口は塞がれた。




「―――んっ…!」

柔らかい唇は角度を変えながら、ついばむ様に何度も重ねられた。

口内に舌が割り込んで来た。
なんとかしてマリアの縮こまった舌を絡めとろうと、口内を激しく犯してきた。
唇が僅かに離れる度に、生々しい音が漏れる。
……息苦しさにマリアは小さく呻いた。

過去に自分が受けた、あの屈辱的な一夜の記憶が脳裏を過ぎった。男にこうやって組み敷かれ、押さえつけられ、体を弄ばれたあの消えない感覚。
今の状況はその記憶とさして変わらぬものだというのに、あの時の様な嫌悪感が不思議と襲ってこなかった。

何故かは分からないが、多分、そうだ。

目の前のこの男の瞳が、あまりにも真っ直ぐ自分を映していて、奇妙な熱を帯びていることが、とても奇妙だったからだ。



ベルトークはふっと口を離した。

どちらのものか分からない一本の細い銀糸が、二人の間に線を引いた。



息苦しさと驚き、そして羞恥心から、マリアは顔を真っ赤にしていた。
生娘でもないのに…と、恐怖とは違う何かで震える自分に酷く困惑する。