細いマリアの首筋に、熱い吐息がかかった。
………ぞくりと身体が震えた。
「―――離して……下さい…………離して………!」
マリアは空いている両手で彼の身体を押した。
しかし、押し返せる程マリアの力は強くない。
ベルトークの腕の中で小さく抗うことしか出来ない。
ベルトークは、急にマリアを解放した。
が、それも束の間だった。
その一瞬で、マリアは背後の絨毯の山に押し倒された。
冷たい絨毯は固かった。
押さえ付けられた両手首が痛い。
止めて、と言おうと顔を向けた途端、マリアの口は塞がれた。
「―――んっ…!」
柔らかい唇は角度を変えながら、ついばむ様に何度も重ねられた。
口内に舌が割り込んで来た。
なんとかしてマリアの縮こまった舌を絡めとろうと、口内を激しく犯してきた。
唇が僅かに離れる度に、生々しい音が漏れる。
……息苦しさにマリアは小さく呻いた。
過去に自分が受けた、あの屈辱的な一夜の記憶が脳裏を過ぎった。男にこうやって組み敷かれ、押さえつけられ、体を弄ばれたあの消えない感覚。
今の状況はその記憶とさして変わらぬものだというのに、あの時の様な嫌悪感が不思議と襲ってこなかった。
何故かは分からないが、多分、そうだ。
目の前のこの男の瞳が、あまりにも真っ直ぐ自分を映していて、奇妙な熱を帯びていることが、とても奇妙だったからだ。
ベルトークはふっと口を離した。
どちらのものか分からない一本の細い銀糸が、二人の間に線を引いた。
息苦しさと驚き、そして羞恥心から、マリアは顔を真っ赤にしていた。
生娘でもないのに…と、恐怖とは違う何かで震える自分に酷く困惑する。

