亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~












足が疼いた。

僅かな疼きで、マリアは眠りから覚めた。


………懐かしい夢を見た。

………イブもよくこうやって夜中に目が覚めると言っていたなぁ…。




そういえば今夜は満月だった。





マリアはベッドから身体を起こし、右足を擦った。

満月の夜は、毎回枝が疼く。月光に反応して、ごわごわと蠢くのだ。

隙間から小さな葉が次々と現れ、光を浴びようと蔓を伸ばす。


………こういう時、必ず鈍い痛みが生じる。成長痛に似たものだ。別に大した痛みではないのだが、むず痒い様な何とも言えない小さな痛みのため、じっとしていられないのだ。


「………日光浴しようか?」

マリアは右足にそう言って、別の部屋へ移った。


満月がよく見える空き部屋へ。


一月に一回行く、物寂しい場所。

マントを羽織らずに部屋を出た。

今は夜中だ。


人と会うことは滅多に無い。










お気に入りの部屋は、何も無い、がらくたばかりが置いてある埃の被った物置部屋だ。



少し歩くだけで…ふわりと白く細かい埃が舞い飛ぶ。




部屋の隅にある、無造作に重ねられた絨毯や布の山に腰を下ろし、右足を伸ばした。