亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


「………はい」

「………なら躊躇するな。私はあちらに戻るからな」

「……分かりました」











マリアは影の残骸に手を伸ばした。

ベッタリと、気持ちの悪い黒い液体が付着した。

………それを、何度も何度も握り潰した。











「……………これって………どうやったら……殺せるの?」


マリアは微笑みながら呟いた。


男と少女の視線が、ふとマリアに向いた。







「………私のナセルを………返してよ…………………返して………返して………」


真っ赤な影の目玉がブチッと手の中で潰れた。



「………殺させて………お願い………………殺させてよ………殺さ……せて…………」














虚ろな瞳に、蝋燭の様な冷たい灯火があった。


マリアは傍らに佇む少女に、笑いかけた。


「………私を………まだ殺さないで……………まだ……死ねないの…………まだね………どんな形でも………。………………憎くて……………仕方無いの………」













少女は無言だった。握り締めていた剣を消し、男に再度向き直る。

「………隊長…」

「……………………貴女は下がっていなさい」