亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

視線の先に、朽ちた影の残骸が広がっている。

跡形も無くなった、我が子。
服の切れ端や血痕だけが、ナセルが今までそこにいたことを物語っていた。











「―――………朧月夜……に………かかる………橋……」





掠れたか細い声で、マリアは歌っていた。



………自分は泣いているのに………どうして…………。












………どうして、笑っているのだろう。












「…………絶えた……道……………は………」













そう。











笑っている方が










楽なんだ。














私は………弱いから。



















「………」


足音が聞こえてきた。

涙で歪んだ世界に、背丈の違う二人の人間の影が落ちた。


「………無理だな。………血を流し過ぎている。あと数分というところか…」

低い男の声が聞こえた。マリアにはもう、言葉の意味さえ分からない。

「……ベルトーク隊長……術は無いのですか…?」

「………どうしろと?………早く逝かせた方がこの娘のためだ。お前の手で葬ってやれ。…もう人を殺せるだろう?」