ふわりと、頭上で小さな風が通り過ぎた。
真っ黒な煙の塊がさぁ―っと息子を食らう影に向かった。
空間から生えた様に、黒煙から巨大な刃物が現れ、一瞬で影を一刀両断した。
醜い鳴き声をあげ、影は蒸気を上げながら溶けていった。
何が起きたのか分からなかった。
ナセルを飲み込んだ影はあっという間に、真っ黒な粘着質のある液体に変わっていく。
マリアはただ呆然と見ていた。
刃が消えると同時に、小さな黒煙が目の前に現れた。
燃え盛る木々や家屋を背に、細いシルエットがマリアの視界を覆っていた。
「―――喋るな。じっとしていろ」
鋭い声は、甲高い少女のものだった。
暗くてよく見えないが、まだ幼い顔立ちが灰色の帽子から覗いていた。
スカイブルーの澄んだ瞳が真っ直ぐマリアを映していた。
「待ってろ。すぐに人を呼んで来る」
少女はそう言って、何処から出したのか、巨大な剣を握り締めて火の海に走って行った。
少女の後に、いつの間にか黒い大きな獣が続いていた。
………マリアは草むらにゆっくりと頭を置いた。

