亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~



ふわりと、頭上で小さな風が通り過ぎた。




真っ黒な煙の塊がさぁ―っと息子を食らう影に向かった。






空間から生えた様に、黒煙から巨大な刃物が現れ、一瞬で影を一刀両断した。



醜い鳴き声をあげ、影は蒸気を上げながら溶けていった。





何が起きたのか分からなかった。


ナセルを飲み込んだ影はあっという間に、真っ黒な粘着質のある液体に変わっていく。






マリアはただ呆然と見ていた。




刃が消えると同時に、小さな黒煙が目の前に現れた。



燃え盛る木々や家屋を背に、細いシルエットがマリアの視界を覆っていた。






「―――喋るな。じっとしていろ」











鋭い声は、甲高い少女のものだった。


暗くてよく見えないが、まだ幼い顔立ちが灰色の帽子から覗いていた。

スカイブルーの澄んだ瞳が真っ直ぐマリアを映していた。





「待ってろ。すぐに人を呼んで来る」




少女はそう言って、何処から出したのか、巨大な剣を握り締めて火の海に走って行った。

少女の後に、いつの間にか黒い大きな獣が続いていた。











………マリアは草むらにゆっくりと頭を置いた。