亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


グチャッ……。



あの汚い牙が小さな我が子の肌にめり込み、頭を、手足を、胴体を、全てを………囓る音が響いた。



―――ナセルが。







―――ナセルが……ナセル……が…。












―――いなくな……。












「―――うああああああああああああ!!」












動く両手で前へ進もうとするが、血の染み込んだ地面を掻き分けるだけだ。
指先に砂利や雑草が張り付く。


血なまぐさい湿った蒸気と火の粉とが混じり合い、吸い込んだ胃と肺が痙攣を起こす。

激しい吐き気が襲ってきた。
目下に自分の血と吐瀉物が広がる。






マリアは熱い涙を拭おうともせず、ただ息子の元へ、あの子の元へと、それだけを一心に動いた。








粉々になっていく私の子。

もう一人の私。







愛しい、ナセル。












「………あああ……ああああああああ!!」













叫ぶことしか出来ない。

















喰われていく我が子を、母である自分は、守れない。














守れない。













ああ……憎い。