グチャッ……。
あの汚い牙が小さな我が子の肌にめり込み、頭を、手足を、胴体を、全てを………囓る音が響いた。
―――ナセルが。
―――ナセルが……ナセル……が…。
―――いなくな……。
「―――うああああああああああああ!!」
動く両手で前へ進もうとするが、血の染み込んだ地面を掻き分けるだけだ。
指先に砂利や雑草が張り付く。
血なまぐさい湿った蒸気と火の粉とが混じり合い、吸い込んだ胃と肺が痙攣を起こす。
激しい吐き気が襲ってきた。
目下に自分の血と吐瀉物が広がる。
マリアは熱い涙を拭おうともせず、ただ息子の元へ、あの子の元へと、それだけを一心に動いた。
粉々になっていく私の子。
もう一人の私。
愛しい、ナセル。
「………あああ……ああああああああ!!」
叫ぶことしか出来ない。
喰われていく我が子を、母である自分は、守れない。
守れない。
ああ……憎い。

