亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~



言葉に出来ない程の、激痛。

右足だけが、熱く、重く、狂った様に痛い。
痛みとは……これほどのものか。

神経自体を取ってしまいたい。



奥歯を噛み締め、右足にそっと触れた。



………膝から下が無かった。

驚く程滑らかな切断面から、真っ赤な血が迸っていた。
砕けた骨と、筋の入った柔らかな肉が覗いている。

すぐ傍らに、皮膚だけが繋がった膝から下の足が転がっていた。


血は止まらない。


………全身が痺れ、重くなってきた。




自分の身体ではないような違和感。
指先が小刻みに震え、思う様に動かない。



「………あああ……っ……うぁ………はっ…………ナ、セル……」

動かない下半身を引き摺って、ナセルの元へと向かう。


………揺らぐ視線の先に、無言で泣き続ける我が子。








ゆっくりと忍び寄る真っ黒な影が、真っ赤な口を開いた。

鋭く、汚れた牙が何重にも並んだ巨大な口。







ナセルがマリアに気がついた。












散々泣いて腫れてしまった目を見開いて、意味も無く、いつもの様に。










眩しい笑顔を浮かべた。














―――ナセルが、消えた。