亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

「ナセル……!…………………!?」



うまく歩けない我が子の背後の木から、大きな黒い影がベチャッ…と音を立てて落ちてきた。

にゅるりとむき出しになった赤い一つ目が、座り込んで泣いているナセルを捉えた。










―――やめて。






――――やめてよ!!







「………嫌!!…ナセルに近寄らないで…!」

再度火のついた枝を拾った。







その瞬間、真後ろに佇んでいた小さな家が、燃え盛って浸食する火に耐え切れず、ぐらりと傾いた。

マリアは寸前の所で避け、草むらに転がった。






崩れ落ちる家屋から、ガラスや柱、家具が散乱した。


マリアの瞳に、クルクルと弧を描いてこちらに飛んで来る、鈍く光るものが映った。








それはマリア目掛けて真っ直ぐ向かって来た。







―――斧だった。










咄嗟に身体を捻った。
………しかし、もう遅かった。











錆だらけの斧の刃は吸い込まれる様にマリアに向かい……。












………真っ白な、華奢な右足に、落ちた。















「―――っあああああああああ…!!」