亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


話しても、誰も信じてくれない。

女である自分の口から出る言葉は全て、世の中では意味の無い言語同然だった。







普段通り、いつもの暮らし通り、にこにこと笑いかけてくるマリアを、カザレは気味悪がって近付けない様にした。


以前の様にマリアを呼び付けることも無くなった。






―――住み慣れた小さな家が、他人の家の様に思えた。











そんな空気の中は、なんだか、酷く居心地が良かった。










「―――……朧月夜にかかる橋………絶えた道は…暗き中……」










膨らんだお腹を擦りながら、マリアは歌を口ずさむ。






お腹の子に、罪は無い。

望んだ訳でもないのに、今ここに、マリアの命を削って成長している。






疎ましいと思ったことは一度も無い。









むしろ、その小さな命が不思議と愛しく感じた。









「………白い蝋燭……灯して………あちらこちらに歩んでく………」








「……………彷徨い惑う……………宛も……無く」






内側から伝わって来る小さな鼓動は、今にも消えそうな程、儚い。







翌月、マリアは男児を産んだ。