亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

歩み寄って来たカザレは、マリアの長い髪をグイッと引っ張った。




「―――俺に…とんだ恥を欠かせやがって………この面汚しめ!……………俺が憎いんだろ?………殺したいんだろ?」


そう言うなり、カザレはマリアの眼前に自分の腕を突き付けた。



うっすらと伸びた細長い切り傷。さして深くないが、浅くもない。
マリアがカザレにつけてしまった傷だ。


少しずれていれば血管を切り裂いていたかもしれない。

「………う……うぅ…」

マリアはしきりに首を振ったが、カザレは地面にマリアの頭を押しつけた。

乾いた土が口に入った。
散らばった髪の間から、楽しそうなカザレの顔が覗く。


「………お前に会わせたかった奴がいるんだよ………誰か分からねぇよな?だろうな?」

カザレは隣りにいた男を指差して言った。
マリアと同じ位か、もしくは年上の若い男だった。

揃ってマリアを見下ろすその表情は………笑っているが、怒りの感情が渦巻いているのは明らかだった。


「………お前がフった男だよ。縁談相手さ。………言っただろう?俺の知り合いだって………」


縁談相手だった男は、マリアに手を伸ばしてきた。


大きな手は、細いマリアの手をきつく掴んだ。