高音と低音の混じりあった不協和音。

影にも痛みがあるのだろうか。

……背筋に寒気が走る。なんて痛々しい、悲しい悲鳴なのだろうか。
これが………人の成れの果て…。


兵士は全力を込めて深々と目玉に剣をめり込ませていった。

赤い眼光が、だんだんと濁っていく。


剣を思いきり引き抜くと同時に、生暖かい黒ずんだものが勢いよく飛び散った。

………それはまるで血の様。

粘着力のある液体が、身体中に降り懸かった。

しゅー…っと黒い塊は徐々に溶けていく。
…鼻を付く様な異臭が漂う。
真っ黒などろどろの液体は、足下に広がっていった。


…ぜえぜえと肩で息をする兵士。
影を倒すのは決して初めてではないが……やはり、慣れない。
獣とは違う、原形の無い正真正銘の化け物なのだから…。


小さく安堵の息を漏らし、背後の仲間の元へ戻ろうと、踵を返した。






―――――………動け…ない………。






言い知れぬ恐怖が全身を駆け巡った。

―――足を………足を掴まれている…!?



ばっ、と見下ろすと、膝から下に、溶けた影の黒い液体が纏わりついていた。

それはまるで意思を持っているかの様に、徐々に上がって来る。



もう事切れている筈なのに…!…………最後の悪足掻きか!!