―――瞬間、身体が浮いた。
地を蹴っていた両足は空を彷徨い、後方へ大きく引っ張られた。
………ゴーガンの刃が寸前のところで振り下ろされ、キーツの髪を数本散らした。
襟首を引っ張られたキーツは、そのまま肩に抱えられ、逆方向に連れて行かれた。
………手を伸ばせば届く所にいたのに。
剣を振れば切っ先が充分届く所にいたのに。
クライブの背中は次第に小さくなる。
……謁見の間が………王が………ローアンが………遠く…遠く。
―――キーツは、愕然とした。
自分を抱えて走る者の肩を悔しそうに叩き、奥歯を噛み締めた。
「―――下ろせ!!下ろせ!!……下ろせ!!アレクセイ!!」
アレクセイは絶対に離すものかとキーツをしっかりと抱え、廊下を懸命に走った。
後から、物凄い勢いで追跡するゴーガンの姿が見えた。
「―――下ろせ!!………僕じゃない!!僕はいいんだ!!………僕より………王とローアンを…!………僕は放っておいてくれ!!」
泣き叫ぶキーツの訴えに耳を貸そうともせず、アレクセイは無言で、ゴーガンを振り切ろうと速度を上げた。
「……嫌だ!!下ろせ!!……アレクセイ!」

