亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

キーツの中で、何か……暗がりにたった一つあった眩しい灯の様なものが、消えた。


音も無く。














「…………クライブ…」

無意識で呟いた言葉は、聞いて欲しい者の耳には届いているのかいないのか。

クライブは、振り返らなかった。


彼の傍らには二人。

あの氷刃のベルトークと、同じ位嫌いな凶刃のゴーガンだった。

野獣と見紛う赤い眼が、呆然と立ちすくむキーツを捉えた。

ゴーガンは肩に抱えていた巨大な剣を下ろし、ゆっくりとキーツに向き直った。

にやりとほくそ笑むゴーガン。






―――殺される。


―――逃げないと。



―――逃げないと。


もはや恐怖など感じなかった。
足は震えっ放しだし、汗は止まらない。走り過ぎて喉と肺がカラカラに乾いている。

キーツの中にあるのは……困惑と、怒り。

ゴーガンが近付いて来ても、それは変わらなかった。

キーツの視線は、始終クライブに注がれていた。


………その曖昧な視界の中で、キーツはふと、視線を感じた。
























―――ローアンが、僕を見つけた。














澄み切った、青い綺麗な瞳が、僕を。