亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

一歩近付く度に、距離を詰める度に、素姓の知れない敵の姿が鮮明になってきた。


真っ直ぐ伸びた細身の長身。

握られた長い剣。

闇に溶け込む真っ黒な軍服。

肌に感じるピリピリとした殺気。









………真っ白な……長い髪。











キーツの足が少しずつ……速度を緩めていった。


その距離およそ10から20メートル。

キーツは足を止めた。




驚きと困惑が渦巻いた瞳を大きく見開き、敵である男の後ろ姿を、ただただ、見詰めた。





見慣れた背中がそこにある。

偉大だった、栄光に満ちていた男の背中が………彼が……。




「………クライブ…?」




ぽつりと、師である男の名を呟いた。


…その直後、真っ白な結われた髪が揺れた。





虚ろな目。


前髪から覗く、何も無い、光をも遮る空虚な瞳が、キーツを映した。






「………なん……で」



どうしてクライブが?
どうして……王に剣を向けている?


どうして………。








クライブはすっとキーツから視線を外し、低い、小さな声で言った。














「―――…ゴーガン……あの子供を始末しろ」