亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


すぐ傍らに、真っ赤に染まった父の頭が転がっていた。

嗚咽を漏らして、キーツはそっと…両手で父の頭を手に取った。


ずしりと重い。

血を吸って濡れた短い前髪を払い、顔を見つめた。

驚くほど白い、いや、青白い顔は、この闇の中でも映えていた。
両目を閉じ、口も真一文字に閉めた父の顔は、不思議と生きていた頃とあまり変わらない。

仏頂面で、愛想の一つも無くて、にこりともしなくて、細かい所をいつも指摘してきて、礼儀作法にはうるさくて…。


………頑固で、真っ直ぐで、滅多に話さなくて、怒ったら怖くて、全然相手にしてくれない冷血漢と思っていたら、単なる照れ屋だったり……。



本当は……冷たい人なんかじゃないんだ。

母の墓前で、人目を忍んで泣いていたのも、僕は知っている。






―――きっと……寂しくて仕方無いんだ。










無言で撫でてくれた父。

手を繋いでくれた父。

時々褒めてくれた父。

叱ってくれた父。

勉強を教えてくれた父。









尊敬していた、ただ一人の、唯一の肉親は…………もういない。





ここにいるのに……もういないんだ。




もう、撫でてくれるあの大きな手は……無い。