拠点である黒い塔の離れには、別の棟がある。
そこはいつ何時でも暗闇が漂い、普段は誰も近付かない。

………否、近付くことを許されていないのだ。

―――…沈黙のみぞ許されるその空間。


一切の明かりは無い。

だだっ広い部屋のあちこちには、埃塗れの銀細工、錆だらけの剣、焼け跡の目立つ絵画………。

―――そこが昔、どれほどの栄華を極めていたのかがうかがえる。

………しかし今は、栄華の残影しかない。






部屋の正面には、大きな絵が飾られている。

金の装飾が施された額縁に収まるのは、人の絵だ。


豪勢なドレスを着た、長い金髪の女性。


しかしその絵もまた戦火の火の粉にやられ、転々と黒い穴が目立つ。





飽きもせず、ある男はこの絵を食い入るように見詰める。