亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


「―――総団長」









何処からともなく、クライブを呼ぶ声が聞こえた。





………何度か聞いたことのある声。
澄んだテノール声は、背後の木陰からだった。



振り替えると、木とその木陰以外何も無い空間から、黒煙の様なものが突如現れた。

黒煙はゆらりと歪み、そこから、灰色の軍服を着た男が出て来た。





ああ、知っている。
あれは確か、国家騎士団の中の最高戦力を持つ先鋭部隊のみが使える……“闇溶け”とかいう能力だ。


そして突然現れたこの長身の男は、先鋭部隊の上の者。


何度か会ったことがある。

………名前は確か…。



「………リンクス、どうした?」


最も信頼出来る部下であり、最初の弟子でもある男。

………ベルトーク=リンクス。



長身で細い身体に、ウェーブのかかった色素の薄い金髪。色白の細面は驚く程整っていて、かなりの美男だ。

……片目のレンズが、その卓越した利発さを際立たせる。


………確かまだ21じゃなかっただろうか。
その歳でよく先鋭部隊の幹部に登り詰めたものだ。



………頭脳明晰、優れた戦力。

尊敬に値する、よく出来た人物だが………性格は悪い。

情など皆無だ。