亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

家来数人に囲まれて車の方に向かう中、オーウェンはにやりと笑い、キーツに向かって口を動かした。



………キーツは読唇術なんて出来ない。出来ないが………奴は絶対こう言った。


―――で・ば・か・め。

………出歯亀……だと―!!


顔を赤らめ、抗議しようと近寄ったが、オーウェンはさっさと車に乗り込んでしまった。


……空しく、ビーレムの足音が遠のいていった。




―――だったら…場所を考えろ!場所を!

キーツは独り内心で喚き散らし、苛々しながら元の位置に戻った。









春の日光は暖かい。ほんの数週間前まではここも雪が積もっていた。

ずっと春なら良いのに。




















………アレクセイ…遅いな。





車を呼ぶために召使に言いに行っただけなのだが……にしても遅い。

何か手間取っているのか…階段から落ちたとか…。


待つのを止め、キーツは屋敷の扉をそっと開けた。


指一本通る位の隙間が出来た時、視線の向こうに、アレクセイの背中が見えた。

………向かえには父の姿もあった。






………なんだ…父上は既に一足先に城から帰っていたのか。

何やら父はアレクセイと話している。