真っ暗な空間。
その奥で椅子に腰掛ける人影はぼんやりとしか見えない。
………しかし………絶対的な存在感がそこにはあった。
後ろで一つに結ったウェーブのかかった髪は、暗闇の中で映えるほど真っ白だった。
………俯いた顔には口と顎に白い髭が見え、老人の様に見えるが……まだ若い。
質の良い、真っ黒な裾の長い軍服を着こなした細い長身。
白い手袋に覆われた長い指は、始終一定のリズムを保って椅子の縁を叩いていた。
「………撤退…か…………珍しくへまをしたな……リンクス…カルジス…」
部屋の入口付近に佇むベルトークとゴーガンは、帽子を後ろ手に持って深く頭を下げた。
「総隊長………申し訳ありません。………作戦を立てていましたが……最初から不覚をとりました」
次にゴーガンが口を開いた。
「………作戦自体は続行可能だったのですが……思わぬ乱入が……」
総隊長はくくっ、と小さく笑い、背も垂れに寄り掛かった。
上げた顔から、深い青の瞳が露になった。……しかしその目に光など皆無で、まるで曇りガラスの様な虚ろな瞳だった。
「……影か………?なるほど………奴等も分かっている…」

