亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~







真っ暗な空間。







その奥で椅子に腰掛ける人影はぼんやりとしか見えない。

………しかし………絶対的な存在感がそこにはあった。






後ろで一つに結ったウェーブのかかった髪は、暗闇の中で映えるほど真っ白だった。

………俯いた顔には口と顎に白い髭が見え、老人の様に見えるが……まだ若い。

質の良い、真っ黒な裾の長い軍服を着こなした細い長身。

白い手袋に覆われた長い指は、始終一定のリズムを保って椅子の縁を叩いていた。









「………撤退…か…………珍しくへまをしたな……リンクス…カルジス…」

部屋の入口付近に佇むベルトークとゴーガンは、帽子を後ろ手に持って深く頭を下げた。

「総隊長………申し訳ありません。………作戦を立てていましたが……最初から不覚をとりました」

次にゴーガンが口を開いた。

「………作戦自体は続行可能だったのですが……思わぬ乱入が……」




総隊長はくくっ、と小さく笑い、背も垂れに寄り掛かった。

上げた顔から、深い青の瞳が露になった。……しかしその目に光など皆無で、まるで曇りガラスの様な虚ろな瞳だった。








「……影か………?なるほど………奴等も分かっている…」