亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

………少女とは思えない強い力。
ぎりぎりと締められ、息苦しい…。

「………っ…このっ…………………!?」

くすくすと笑うイブ。松明の明かりで照らされたその姿に…リストは驚愕した。


口元に覗く小さな牙。

赤い三白眼。

額に浮かぶ黒い目玉。


………これは…。

「………かはっ……お前………“フェーラ”か…」

…フェーラ。魔獣や聖獣ではない。人間の皮を被った野獣だ。
その種類は様々。肉食で、時々人間を襲う事もある。
知能はそこそこあるが、動物と変わらない。戦闘能力は凄まじいもので、体力、視力、聴力……力と共に感覚器官が大変発達している。


そのフェーラが人の言葉を話し、兵士として人間に従っている…。

「………そうだよ~あたしフェーラだよ?だから何?…なんか変~?」

額の目がぱちぱちと瞬く。
リストをじろじろ観察していたイブの視線が、リストの瞳に止まった。

「……あれぇ…?………なんかあんた…………………あたしと同じ臭いがする…」

瞬間、リストの顔が強張った。

「―――…黙れ………黙れええぇぇぇ!!」

首の皮膚に食い込んでいたイブの手を強引に押し退け、正面のイブに向かって目茶苦茶に振り回した。