亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

………兵士達の教訓には、己を諫めるべし、というのがある。

その中で一番厄介且つ諫めにくいのが………情欲。

兵士になれば、女性に遭遇することなど滅多に無い。
これが結構、きつい。

が……まさかこんな形で禁欲の対象に出くわすとは思ってもみなかった。


マリアは綺麗だ。
一度笑えばそりゃもう天使。のほほんと花を散らす彼女は、どうやっても敵に見えない。……どうやって見ろと?

事実、マリアを囲んでいる兵士達の目には困惑の色が見えた。








「………あのぅ……私敵ですけど、殺さないで良いんですか?」

三六〇度、剣や槍が自分に向けられているが……どれからも殺意は感じられない。

「―――…だったら私…」

マリアは笑顔で剣を握り直した。

「―――…先に殺させてもらうわ」

マリアは歩くような速さで、正面の兵士に近寄った。

厚い盾を持った装甲兵だ。何処を叩いてもそう簡単に傷つかない。

構えられた盾に向かって、マリアは何の躊躇いも無く突きを放った。





黒光りする厚さ5ミリの鉄板が…………いともたやすく貫かれた。

「―――うっ…」

剣は盾を抜け、鎧を抜け……兵士の眉間にめり込んでいた。

マリアは首を傾げた。
「………大丈夫?」