前から、細身の黒い獣が走り寄って来る。
―――トゥラ?
何故ここに戻って来た?
トウェインは一旦“闇溶け”を解き、トゥラに「行け」と命令した。
しかし、トゥラは引かない。
それどころか、トウェインの服の裾を咥えてぐいぐいと後に戻そうとする。
訳が分からずそのまま二、三歩後退した。
「―――トゥラ……何を…」
高い高い城壁から、ランプは落下した。
小さな灯を覆う薄っぺらいガラスはいとも簡単に粉砕し、火種は外に放り出された。
落ちた地面に、勢いよく炎が生えた。
城からぐるりと、炎は広い荒野を囲む様に円を描いていく。
戦場を、敵を、火の壁で囲んだ。
トウェインの目の前が、急に炎と化した。
「―――!?」
およそ二メートルの高い火の壁だ。
他部隊がいる辺りは完全に火に囲まれていた。
トゥラはこの事に気付き、いち早く戻って来たのだ。
………トゥラが止めなかったら、今頃トウェインもこの燃え盛る火の囲いに巻き込まれていたに違いない。
「………良い子だ…」
一向に消える気配の無い炎を見詰めながら、トウェインはトゥラをそっと撫でた。

