何処からか駆け寄って来たルアとトゥラ。
二匹とも目立った怪我は無い様だ。
……ローアンの周囲に、再び…巨大な影の群れが地面から生えてきた。
黒いヘドロの海が、また目の前に広がっていく。
「………ルア、お前は……先に行け…!」
剣を片手で持ち、影達を睨み付けながらただそれだけ………鋭く言い放った。
場所も何も言っていないのに、ルアは一吠えするなり脱兎の勢いで、影の海を駆け抜けて行った。
角の青い玉を光らせ、本の一瞬だけ怯む影の頭上を次々と飛び越え、ローアンの視界から消えていった。
………ジワジワと迫って来る影達を射殺す様な目付きで、ローアンは影狩りの体勢に入った。
…手が……足が………身体が、震えている。
これは、武者震いでも恐怖でもない。
………どうしようも無い不安と、悲しみが合わさった故の……表現しがたい震えだ。
………退いて。
………早く向こうに行きたい。
………だから、退いて。
………退いて。
「―――………退け」
小さく呟くと同時に、ローアンは駆け出していた。
もはや身体の一部同然の巨大な剣を目にも止まらぬ速さで、上下に、左右に……。
ローアンが通った後、数秒の間を置いて次々と八つ裂きになっていく影の巨体。
ヘドロの海に、不自然な細い道が出来ていく。
………それは止まることを知らない。
後ろから続いていたトゥラに、甲高い指笛で合図を送る。
瞬時にトゥラはローアンに追いつき、隣りに並んだ。
………その黒い背中に、ローアンは跳び移った。

