亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


何処からか駆け寄って来たルアとトゥラ。

二匹とも目立った怪我は無い様だ。













……ローアンの周囲に、再び…巨大な影の群れが地面から生えてきた。

黒いヘドロの海が、また目の前に広がっていく。



「………ルア、お前は……先に行け…!」

剣を片手で持ち、影達を睨み付けながらただそれだけ………鋭く言い放った。

場所も何も言っていないのに、ルアは一吠えするなり脱兎の勢いで、影の海を駆け抜けて行った。
角の青い玉を光らせ、本の一瞬だけ怯む影の頭上を次々と飛び越え、ローアンの視界から消えていった。




………ジワジワと迫って来る影達を射殺す様な目付きで、ローアンは影狩りの体勢に入った。



…手が……足が………身体が、震えている。









これは、武者震いでも恐怖でもない。




………どうしようも無い不安と、悲しみが合わさった故の……表現しがたい震えだ。







………退いて。


………早く向こうに行きたい。


………だから、退いて。


………退いて。















「―――………退け」

小さく呟くと同時に、ローアンは駆け出していた。

もはや身体の一部同然の巨大な剣を目にも止まらぬ速さで、上下に、左右に……。


ローアンが通った後、数秒の間を置いて次々と八つ裂きになっていく影の巨体。

ヘドロの海に、不自然な細い道が出来ていく。


………それは止まることを知らない。






後ろから続いていたトゥラに、甲高い指笛で合図を送る。

瞬時にトゥラはローアンに追いつき、隣りに並んだ。


………その黒い背中に、ローアンは跳び移った。