亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


苦しそうに呻き声をあげる影はどんどん融合していき、その大きさを増していく。

数も多い。

三メートルを軽く越すヘドロの山が、大きな口を開けてズルズルと近寄って来た。

幾重にも並んだ牙が、物欲しそうに黒い唾液を絡ませて黒光りしている。



ローアンは一直線に進みながら、巨大な剣を構えた。

山の如き影が吐き出してくる粘着質な体液の塊を、華奢な片手で目にも止まらぬ速さで両断し、八つ裂きにしていく。

そして一気に間合いを詰め、うわ顎の牙の根元から、一太刀で抉ってやった。
のけ反ったところを、そのまま勢いを落とさずに剣を下から上へ流す。
急所である菱形の目玉が身体の中にめり込む前に潰した。


真っ黒な影の返り血が、青白い刀身と真っ白な頬に飛び散る。

代々受け継がれてきた真っ赤な花嫁衣装に黒い染みが出来ていくのは、非常に申し訳無く思えた。


倒した影が溶けた蝋燭の様に地面に崩れ落ちると、その後ろから再び巨大な影が押し寄せて来た。

その第二派を崩しても、仲間の残骸を踏み越えて第三派が前に出てくる。これ程の大きさだ。一振りでは倒せない。


…埒が明かない。



(………時間だけが……過ぎていく……)





影の目玉を突き刺し、刃を回転させてブチリと勢いよくもぎ取った。

真っ黒な巨体をまた一つ崩し終えた時、足元の大地の揺れが、急に激しさを増した。