…こんな所で奴等の餌食になる訳にはいかない。

何としても生きていなければならないのだ。


(………撃退……出来るか?…………逃げても追いつかれるな………)

一匹ずつ仕留める。ライマンの分身自体には意思は無い。本体の方を間違えずに斬れば、分身は消える。
問題はワイオーンの方。こちらから先に斬るか…?


握り締めた短剣の柄を手の内で回しながら、ローアンは正面の敵を睨み付ける。



―――途端、ライマンの後ろにいたワイオーンが咆哮しながら床を蹴った。

短気な方から攻めて来たか…。

ローアンはギュッとドレスを胸に抱えて、飛び掛かって来るワイオーンに狙いを定めた。



(―――…一撃で…!)


飛んで来る口を開けた大きな頭。

その隙だらけの脳天目掛けて、ローアンは短剣の切っ先を向けた。




















怒気という感情をそのまま形にした様な赤い獣。

その爪がローアンを掠める目の前まで迫った時。



















ワイオーンの頭は、横一文字に、半分に割れた。







「―――!?」



滑らかな切断面を見せ、綺麗に半分に両断されたワイオーンの鼻から上は、鮮血を撒き散らして足元に転がった。
下顎から下の身体は、勢いをそのままにローアンを通り越して背後の床にゴロゴロと転がっていく。




………何が起きたのか分からない。

視線を前に戻すと、構えていたライマンの真っ黒な身体から、血肉が飛び散るのが見えた。




……痙攣しながら床に伏すライマン。
分身はあっという間に消え失せた。




―――…ローアンは反射的に身構えた。


暗がりの向こうから、気配がする。