廊下の片隅。

床にはっきりと焼き付いた模様は、黒の魔法による魔方陣だった。
その中央には、半分以上が蒸発した影の身体。

既に事切れている影は、再生する気配は無い。


………ここでつい今し方……戦闘があったのだろう。
既に先を歩いているクライブは、一体誰と戦ったのか。


知る術も無い。



ローアンは真っ赤な花嫁衣装を抱えたまま、更に奥へと足を進めた。

この先はもう一本道。

辿り着くのは謁見の間。






(…………総隊長……)

彼は今、どの辺りだろうか。
遥か先の謁見の間に、もう足を踏み入れているのだろうか。





「………もう少し………」


その距離は縮まっている。

確実に。

彼の残り香に似た凄まじく冷たい空気が、この辺りを漂っているのだ。



まだ引き摺ってはいるが、徐々に動く様になってきた足を酷使し、ローアンは懸命に進む。






―――その途端、背後から、べチャリ……と粘着質なものが落ちてきた様な音が聞こえた。

刃こぼれの激しい、使い物にならない短剣を反射的に構え、距離をとって振り返った。

天井から糸を引く黒いドロドロの塊は、一瞬ブルッと震え、獣の姿へと変わった。



………魔獣ライマンだ。

しかも分身の影を作っているのか、こちらに牙を向くライマンは計三匹だ。



………まずいな。


今の弱り切った身体では、彼らの俊敏な動きに到底追いつけないだろう。


厄介な相手だ。

そうこうしている内に、また別の影が現れた。

……こちらはワイオーンだった。


計四匹となった獰猛な獣は、身を屈めて、今にも飛び掛かりそうな勢いでローアンに唸っている。